辻社会保険労務士事務所　取扱業務

人事労務に関する手続き、相談を幅広く取り扱っています。

なにもトラブルが起こらなければよいのですが、中小企業の労使トラブルは増加傾向です。
普段想像できないことも、事例を観ることで自社の場合に置き換えてご検討ください。
起きてしまってからでは、遅いのです！

■ 残業手当の計算

事業主は、従業員に時間外労働をさせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。

時間外割増賃金を計算するには、以下の2点に注意が必要です。

１．割増率
　　　残業時間は、以下のように分けられます。
　　　（ａ）法定内残業…労働基準法で定められた時間を超えない会社が決める残業時間
　　　　　　　　　　　　　　　　　割増率　　０％
　　　（ｂ）法定外残業…労働基準法で定められた時間を超え、法定休日以外の残業時間
　　　　　　　　　　　　　　　　　割増率　２５％
　　　（ｃ）法定休日残業…労働基準法で定められた休日に労働させた時間
　　　　　　　　　　　　　　　　　割増率　３５％
　　　中小企業の場合、割増率の誤認がみられます。
　　　たとえば、会社で決めている労働時間が法定労働時間より短い場合は、（ａ）にあたり
　　　法定割増は不要となります。
　　　また、土曜日や祝日に休日出勤した場合、（ｂ）に当てはまることが多いと思われま
　　　す。
　　　この場合、法定割増率は２５％です。
　　　さらに、法定休日に労働させた場合で、その日に8時間以上労働させたとしてもその
　　　労働は休日労働です。この場合、法定割増率は３５％です。
　　　ただし、それぞれの残業時間が深夜時間帯（２２：００～翌５：００）にかかる場合は、
　　　深夜割増（２５％）が別途必要です。
　　　中小企業では、この割増率の取扱いがあいまいになっていることを見受けます。

２．割増賃金算定基礎賃金
　　　労働基準法では、割増賃金の算定賃金から除外することができる手当を限定して
　　　例示しています。
　　　（１）家族手当（労働者に一律支給されている場合は除外できません）
　　　（２）通勤手当（労働者に一律支給されている場合は除外できません）
　　　（３）別居手当
　　　（４）子女教育手当
　　　（５）臨時に支払われた賃金
　　　（６）１箇月を超える期間とごに支払われる賃金
　　　（７）住宅手当
　　　「皆勤手当」が割増賃金の算定基礎から除外されていることをしばしば見受けます。
　　　皆勤手当は、通常出勤すれば固定的に支払われる賃金ですので、算定基礎賃金に
　　　含める必要があります。
　　　また、基本給のみを割増賃金の算定基礎としている会社も見受けます。

その他、会社としては直接支出するものですし、労使トラブルが生じやすいぶぶんです。
これを機会に、関心を持って点検することが必要です。

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■ 退職後の有給休暇

従業員が、退職する際や退職後に
「今まで使っていなかった有給休暇を買い取ってください。」
と言われたことはないでしょうか？

年次有給休暇（労基法39条）は、本来労働する義務のある日に通常の給与を確保しつつ、
その日の労働を免除し、労働者が心身をリフレッシュさせることが目的です。

そのため、退職後やもともと休日である日を有給休暇とすることはできません（労働義務
がないので）。

逆に、退職までに有給休暇が使える就業日があれば、有給休暇を認めるべきですが、退
職間際にしかも有給休暇の買取を申し出てこられても、買い取る義務はありません。

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■ 従業員の出産

従業員が出産する際には、法律上2つの休業があります。
産前産後休業と育児休業です。

①産前産後休業
　　出産の予定日以前４２日と出産日後５６日の休業です。
　　この期間については、健康保険に加入していれば「出産手当金」が支給されます。
　　出産手当金は、おおよそ給与の６６％が、カバーされます。
　　ただし、健康保険料、厚生年金保険料はかかります。
　　給与は不支給でも、事業主の保険料負担は必要です（従業員分は、本人から回収し
　　ます）。

②育児休業
　　産後休業後から、原則子が１歳になるまでです。
　　ただし、一定の場合は、延長もできます。
　　この期間については、育児休業給付が支給されます。
　　育児休業給付は、おおよそ給与の５０％です。
　　さらに、育児休業期間は健康保険料、厚生年金保険料が免除となります。
　　従業員はもちろん、事業主負担分も免除です。
　　給与が不支給であれば、事業主の人件費負担はありません。

確かに、産前産後休業中は、労働していない従業員の保険料を負担することになります
が、せいぜい３～４ヶ月分です。その後は、保険料が免除となりますので、育児休業中の
従業員も負担が軽減されます。
従業員が育児休業後復帰する意思があれば、快く産前産後休業や育児休業させて、会社
でのその後のモチベーションにつなげていきましょう。

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■ 病気欠勤

従業員が病気欠勤することがあります。
業務中の災害によるケガの場合、会社には使用者としての責任があり、欠勤休業に対し
休業補償が必要となります。これに関しては、労働者災害補償保険（労災）から給付が
あり、会社としては手続きを採ることで、従業員の生活をある程度保障できます。
それに対し、業務外の病気欠勤については、健康保険より傷病手当金が支給されます
が、病気欠勤が長期化すると、その間の業務処理の問題と職場復帰の処遇の問題があ
ります。
特に、外見上判断がつきにくい精神に関する病気（うつ病等）は注意が必要です。

①労災対象外休業の位置づけ
　　業務及び通勤に関するケガや病気に関しては、労働を命じた結果として起きたもので
　　すから、民法、労働基準法でその補償を使用者に義務付けています。
　　対して、業務外のケガや病気（私傷病）に関しては従業員の責任であり、その結果とし
　　て、雇用契約で約束した労働ができないということは、厳密には契約違反とも考えられ
　　ますし、会社としてその間の生活保障義務はありません。
　　しかし、長期的な雇用関係を維持しようとする場合、従業員が安心して働ける環境を作
　　ることも、会社としては重要ですので、労災の対象とならない休業に対するケアの方法
　　として、就業規則に「休職」を規定しています。

②休職規定の意義と対応
　　休職規定は、従業員の就業環境整備という面と、私傷病を原因とする休職の長期化に
　　対する解雇回避努力という面があります。
　　この休職期間を設け従業員の就業環境整備をすることで、優秀な人材の流出の防止
　　に一定の効果がありますが、逆にその間の業務処理の問題や保険料負担の問題が
　　発生します。
　　また、本来であれば、従業員本人の責任で休職し雇用契約にある労働ができないの
　　であれば、契約解除（解雇）もできるはずですが、経済的弱者である労働者を保護す
　　る目的で、解雇は自由にできません。解雇するには、さまざまな規制があり、その中
　　の一つとして、解雇回避の努力がなされていたかも重要な要素となっています。
　　一方、採用直後に私傷病で休職された場合、会社への貢献もされておらず、将来への
　　期待も薄い従業員の休業中の生活保障もするとなると、使用者の心理的にも納得でき
　　かねると思います。
　　そこで、採用からの勤続年数により、休職できる期間を設定することをお勧めします。
　　勤続年数が１年未満であれば、休職を認めないとすることも考えられます。

③休職期間
　　休職期間は、基本的には無給として健康保険からの傷病手当金を申請し、その休職者
　　の生活保障に充てますが、本人と会社は社会保険料を負担しなければなりません。
　　また、給与が月額３０万円で休職期間を無給とした場合、休職１か月の社会保険料
　　は、会社と従業員それぞれ約３７，０００円です（介護保険対象者）。
　　また、休職期間があまり長期になると、その間に休職者が担当していた業務をどのよう
　　にカバーするか（既存社員、派遣、臨時社員等）の対応が必要ですし、場合によっては
　　新規の社員を雇用することも考えなければなりません。
　　
④復職
　　休職期間を満了すると、当然退職（実質解雇）となるように規定するのが一般的です。
　　ここで問題となるのが、休職期間満了前の職場復帰の判断です。
　　中小企業の職場復帰は、以前と同じ職務に就ける状態まで回復していることが条件と
　　なります。そうでなければ、雇用契約で約束した労働が提供できません。この判断は、
　　会社がするもので、休職者が判断するものではありません。
　　休職者やその主治医が復帰できると判断しても、あくまでも会社や産業医が判断しま
　　す。特にうつ病等の場合は、職場復帰後の会社業務が心理的圧迫を与える可能性も
　　ありますので、慎重に判断する必要があります。
　　さらに、休職から復帰後、再び同じ理由で休職を申し出る可能性もありますので、一定
　　期間（１年程度）は、前後の休職期間を通算する規定を設けることもお勧めです。

あまり厳しくすることは、従業員に冷たい会社であるとの印象を与えかねないですし、企業規模や人件費負担、業務の振り分け等を総合考慮して休職期間を設定し、就業環境の整備をすることが大切です。

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■ 長時間労働

長引く不況とリストラにより、経営基盤が脆弱な中小企業では、時間外労働がなくなりません。
特に、個人の資質に頼る企業では、業務の効率化が進まないのが現状です。
業種や現在の賃金体系、時間外労働の状況により、対応策が変わります。

①定額残業代の活用
　　契約書等で、現在の賃金と時間外労働の時間から計算し、定額残業代として毎月
　　一定額を支給する方法です。
　　ただし、実際の時間外労働が超過する場合は、その部分を別途支払うことが必要で
　　すし、タイムカード等で時間外労働の状況を把握しなくて良いわけではありません。
　　こちらの手当を活用できるのは、たとえば、現在支払っている営業手当等が、実態
　　としては時間外手当であるが、明記していない場合は、その趣旨であることを明確に
　　することで、トラブルを防止できます。
　　また、基本給に時間外手当相当分が組み込まれている場合も、別個にして明確化す
　　ことも大切です。

②各社の取り組み事例
　　・時間外労働の許可制（事前申請性）
　　　本来時間外労働は、事業主や上司からの業務命令があって、初めて行うものです。
　　時間管理を行うべき上司が、許可をした部分のみ時間外労働として認め、割増賃金
　　を支払うようにすると、早く終わらせようとする意識が芽生えます。ただし、黙示の指
　　示がある場合、他との協力体制が取れず結局そのシワ寄せが回ってくるとなると、
　　効果がなくなります。
　　時間管理者の力量が問われる制度です。
　　・ノー残業デイの実施
　　　「毎週、水曜日は残業禁止とし、終了時刻30分以内に退社すること」
　　などと決める方法です。その日は、早く会社の業務を終わらせて、飲みニケーション
　　というのもよいのではないでしょうか。
　　こちらも、社内で徹底させるために、緊急の事情がある場合のルールなどを決める
　　事が重要です。
　　
　時間外労働が常態化すると、従業員の健康を害し、最悪の場合過労死ということも考えられます。その場合、責任を問われるのは、事業主です。そのリスクを避けるためにも、対策を講ずるべきです。
　また、時間外労働が長かったり、割増賃金が不足していると労働基準法違反となるだけでなく、従業員の業務に対する意欲も低下することが考えられます。